いこが岡山に住んでいたとき、週末だけ魚市場で働いておりました。
小売の為の魚の仕分けやお惣菜パック詰め、レジ打ちなど様々な業務がある。
その中で魚の重さで値段をつけたりする仕事があって、入って間もない頃はそこで働くおじいちゃん82歳(!!)とペアを組んでやっていく。
いこを含むアルバイトの若者たちは三原さん(仮名)に敬意を表し三原プロと呼ぶ。
三原プロは若いときは造船関係の会社で設計士をしていて、今は温厚な彼も現役時代はバリバリの鬼軍曹だったらしい。80歳を過ぎた今も頭脳は明晰で計算も速いし、市場全体をしっかり状況判断し、仕事を割り振りする姿には脱帽。
魚市場の隅で行われる怪しい取引
そんな三原プロ、ひとつだけ気になる事があった。
それは朝一、三原プロが出勤してくるタイミングでいつも目撃する。
あなご焼き担当の寺門(ジモン)さんにおもむろに近づき、ポケットから何かを出す。
そしてジモンさんへこそこそとそれを手渡すのだ。
ジモンさんもジモンさんでそれを人には見えない角度で受け取り、自らのポケットへしまいこむ。
目撃したことは一度や二度ではない。
あれはなんだ。なんなんだ。
ジモンさんは50前半の気のいいおじさんで、体はほっそりしている。
時々バイト女子にデリカシーのないことを言ってむっとさせる事意外は毎週土曜にたい焼きの差し入れをしてくれたりと、優しいおじさんだ。
そんな二人のやりとり。気になるが、あのこそこそ加減は突っ込んではいけないやつだ。いこにも分別はある。
何度も考えた。人には見せられないものの取引となると、犯罪の匂いがしてくる…。
もしくは金のやり取りか…。謎は深まるばかり…。
ある日突然真相が明かされる。
いこの結婚が決まり、東京へ移住する直前、ジモンさんがバイト仲間のとしぼーといこを誘ってお出かけへ連れて行ってくれた。
結婚祝いとして備前焼のペアのコーヒーカップをプレゼントしてくれると言って。
道中わいわいやりながら、魚市場の仕事の話やそこで働く人々の話を何の気なしにする。
そのときふと、三原プロの話題になった。
…今だ!!あれについて聞けるのは今しかない!
もうすぐいこは魚市場を辞めて東京に旅立つ。このタイミングを逃しては、あの謎は一生解けないままだ。
いこは覚悟を決めて、ジモンさんに話しかける。
「もう辞めちゃうので最後に聞きたいんですけど…いつも三原プロと朝に闇の取引してますよね?あれ、何なんですか?」
……さぁ、何て答えが返って来るんだ???
ジモンさんは失笑と取れる笑みを浮かべながらこう返す「あー、あれね…」
その真相はなんともあっけに取られるほど、なんと言うか…どーでもいいことだったのだ。
いこが一年近く気になり、悶々としていた闇の取引の内容とは…
ジモンさんに三原プロが栄養ドリンクを渡しているだけだったのだ。
どないやねん!!!(笑)
話を聞くとこんな事情が。
他にも魚市場の従業員がいる中でジモンさんにしか渡していないこと三原プロは悪く思っていたので、あのコソコソにつながっていたというわけだ。
いこの悶々とした一年は溜まった悶々度合いに比例する大爆笑で幕を閉じたのでしたとさ。
ちゃんちゃん。