もう7~8年前のことだろうか。
いこは、通っていた英会話教室のハロウィンパーティに参加していた。
気合の入った仮装の面々も多い中、いこは特殊なメイクなどはせずに、おきまりの魔女ハットを被って参加。
18時に始まり20時にはお開きになったパーティ。
せっかく夜のすすきのに繰り出したのにこんな早くに帰るのはもったいないなー、と思いながら建物玄関で友達でも誘って飲みなおそうかなと思っていると…ふと背後に気配が。
振り返ってみると、小さなおばあさんがいこを真っ直ぐに見つめている。
なんだろう?おばあさんはなんだか魔女のような雰囲気を持っている。
落ち着いた足取りでいこに近づいてくる。何か困りごとでもあるのだろうか?それにしては困っているようには見えない。
おばあさんはおもむろに
「ちょっとアルバイトしない?私そこで店やってんだけどさ。いろんな人が働いてて面白いよ」
と、話しかけてきた。
ハロウィンの夜に魔女のようなおばあさんに出会うなんて。
面白い事が大好きないこは、好奇心が勝ってしまい、おばあさんの後を付いていくことにした。
先程声をかけられたところから20歩もしないところにおばあさんの店はあった。
ドアは年季が入っていて、ヨーロピアンテイストな装飾が入っている。
重いドアをぎぎぎーと開けると、不思議な光景が広がっていた。
そこは隠れ家バーのような、スナックのような、どのカテゴリーに入れていいのかわからない不思議な空間。
店のつくりは横に長い。カウンターがあり、その背面にボックス席が3つ。
カウンターの中には、白人女性と黒人男性がいて、カウンターに座るお客さんと会話をしている。
おばあさんはいこに、カウンターに座る男性の横に座るように指示をする。
言われたとおり隣に座り、カウンター内のおばあさんと3人でたわいもない話をする。
なんだこれは……?当時いこは昼の仕事と飲み屋さんのかけもちをしていた為、スナックなどでの客あしらいの方法はわかっていた。
でも、ここの店のコンセプトが全然つかめない。
陽気な黒人は「ハーイ、オレノナマエハ、ナカムラ。ヨロシクネー」と自己紹介。
ギニア人の父とナイジェリア人の母を持つナカムラ。とにかく陽気。
もう一人の白人女性はロシア人だそう。
なんだこの店は…。
誰をターゲットにしているのか全く不明。その混沌とした空間は、謎に包まれている。
外国人女性ばかりがいるのなら外国人女性好きな男性がターゲットなんだろうと納得はいく。けど、その場で一番目立っているのは黒人ナカムラ。訳がわからない。
けど、その訳のわからなさにいこはすでに惹かれていた。
おばあさんが話すにはその店はもう何十年も続いているらしく、昔は旦那さんと二人できりもりしていたという。
旦那さんが亡くなってからは、おばあさんが夜な夜な若い子をナンパしてはお店に連れて行き、不思議空間での夜を演出しているそうだ。
昔は正統派なスナックだったのかもしれない。いつからか外国人や若い子、面白そうな人をその日ごとに声をかけ当日現地調達をしてお店を回すようになったんだろう。
何十年も続いている店だ。中には頑固にオープンから何も変わっていないという店もあれば、続けていくためにキャラ変を余儀なくされるアイドルのように、業務形態やお店のカラーを臨機応変に変化させ、生き残っていく店もある。
今もあるのだろうか、すすきのの魔女の館…。ハロウィン時期になると思い出す変な人達でした。
田舎生まれのいこには、黒人なのにナカムラと名乗る男が個人的にはツボだった。
東京にはそんな人はわんさかいるんだろうな。