どうも。いこ です。
いこの住むマンションの近くに、変な人が出没する。
人畜無害のクリボーおばさんだ。
今日はその謎多きクリボーおばさんの話をしようと思う。
心の準備はいいだろうか。
クリボーおばさんが初めて湧いて出た日
それはある夏の、蜃気楼が見える程のうだるような暑い日のこと。
いこは昼下がりに近くの図書館に出掛けることにした。
仕事が休みの日、家でだらだらしてたんじゃエアコン代もばかにならない。
こうゆうときは公共施設に入りびたるに限る。涼しい中で読書だ。崇高じゃないか。
いざ図書館へ、とマンションから通りに出ると、不思議なフォルムをしたおばさんがゆっくりと歩いている。
年の頃は40後半~50半ばだろうか。
背は小さく150センチあるかないか、もしかしたらもう少し小さいかもしれない。
妊娠しているのかと思うくらいお腹が前に張り出し、異様に紐の長い斜めがけバッグをかけている。
しかし、その時いこはずいぶんゆっくり歩くなぁ、という感想以外は特に持たず図書館に向かった。
それが全ての始まりだったのだ……。
クリボーおばさんの謎の一方通行
図書館で涼みながら2時間ほど読書を楽しみ、本を借りて帰る事にした。
有意義な時間を過ごせてご機嫌ないこは軽快に自転車を漕ぎ漕ぎ帰路につく。
図書館からいこのマンションまでは自転車で5分くらい。
最後の角を曲がるといこのマンションが見える。
見える。見える…。角を曲がるか曲がらないかというところで、図書館に出かけた時に見かけたおばさんが目に入ってきた。
おばさんは最初に見かけた時と同じ方向にゆっくり歩いている。
「あれ、図書館行くときにいたおばさん、また会うなんてタイミングすごいなー。」
いこは不思議なタイミングの一致を感じながらも、そのまま家に帰った。
そして借りてきた本を読んだり読まなかったりしてだらだらと過ごす。
しかし暑い。夕方になってもほとんど気温が変わらない。
旦那わさお君が帰ってくるのはまだまだ後だ。
よし。こーゆー日はアイスだ。よし。コンビニだ。
徒歩2分くらいのすぐ近くにあるコンビニでアイスを買ってこようと思い外へ出る。
現在時刻は16時。夏の盛りだ。まだまだ陽が高い。
いこは既にアイスになった口を尖らせながら意気揚々とマンションの階段を下りていく。
あっ!いっ!すっ!
あっ!!いっ!!すっ!!
あっ!!いっ!!?す??
……なんということだ…………
…また………あのおばさんがいるではないか…。
また同じ方向にゆっくりと歩いている。
いこは少し混乱した。
え?え??どゆこと?ん?んんーー??
今まで、あのおばさんを見かけたことがなかったのに、今日初めて見てから既に3回目…しかも毎回同じ方向に歩いてる……。
しかも最初に見たのは昼過ぎ、そして今は16時。
もしずっと歩いているとしたら…もう4時間は経っている……。
まさか、ずっと……?
ど、どうゆうことなんだ………。
いこがその日眠れなかったのは熱帯夜のせいだけではない。
その日から高頻度出現のクリボーおばさん
その日を境に、そのおばさんをよく見かけるようになった。
いつも水色のTシャツに包まれ異様に前に突き出したお腹。異様に紐の長い斜め掛けバッグ。チノ素材のベージュのハーフパンツにサンダル。
毎日同じスタイル。
初めて出会った日は3度全て同じ方向に歩いていたが、どうやら極めて短い距離を異様なスローペースで往復しているようなのだ。
いこのマンションの前から少し大きな通りに出るまでの約20メートル程。
便宜上、ゾーンと呼ぶことにしよう。
そのゾーンをゆっくりしつこくしつこく往復しているようなのだ。
目的はわからない。目的地もなさそうだ。
おばさんの表情からは何も読み取れない。
あまりにも毎日見かけるようになったため、やがていこはおばさんに慣れてしまった。日常と化したのだ。
旦那わさお君の異様な怯えとネーミング
ある日、旦那わさお君に何の気なしに件のおばさんを見たことがあるかと尋ねた。
するとわさお君は顔色をサッと変え、「知ってる…怖いよな……クリボー。」とかなりビビった様子で答えたのだ。
なんと、旦那わさお君はあのおばさんの事を認識しているどころかクリボーというあだ名までつけていたのだ。
確かにどこから湧いて出てるのかわからないし、最初は同じ方向に歩いているのしか見なかった。そのネーミングセンスは悪くない。
その日からいこもそのおばさんを「クリボー」という愛称で呼ぶことにし、我々夫婦の会話の中にもよく登場するようになった。
「今日久々にクリボー見たわ」
「クリボー最近見なくない?」
ってな感じでクリボーおばさんはいこと旦那わさお君の日常に溶け込んでいったのだった。
クリボーおばさんはどこから来るの?
クリボーおばさんは冒頭でお伝えした通り、いこの住むマンションの前の通りから、少し大きな通りに出る交差点までの約20メートルの間のTHEゾーンでしか目撃しない。
どこから湧いているのか。
どこかから来て、その特定の道を歩くのか。
ゾーンには2軒の家と別のマンションしかない。
しかも別のマンションの入口はこちらの通りに面していない為、実質2軒の家しかないが、クリボーおばさんが出入りしているところを見た事がない。
2軒の家のうち1軒は別の人が住んでいるようだ。
もう1軒は古びた家で、玄関などが見当たらず、正面にシャッターがあるが、常に閉ざされている。人が住んでいるのかはよくわからない。
クリボーおばさんで季節を知る
そうこうしている内に季節は巡る。
今は冬だ。
クリボーおばさんは夏にしか生息しないのか、寒くなってから通りで見かける事もなくなった。
旦那わさお君とは、たまに「クリボーいないね」と話題にするが、心なしかお互いに寂しい。
また、夏になったら出てきてくれるだろうか。
クリボーおばさん。
と、想いを馳せる。
ある寒い日、いこと旦那わさお君は一家でお散歩をした帰り道、マンションはすぐそこ、クリボーゾーンに差し掛かった時のことだった。
例の開かずのシャッターが半分だけガラガラと開いた。
そこからなんと防寒したクリボーが出てきたのだ。
唐突にクリボーの出どころを
2年越しに知ることとなる。
そして、クリボーおばさんはいつものゆっくりした足取りではなく、目的地がある意志の宿った目と足取りでクリボーゾーンを脱し、角を曲がっていったのだった。
まだまだクリボーおばさんの謎は解けない。