いこがオーストラリアでワーキングホリデーをしていた時の話。
もうかれこれ10年前になる。
いこはゴールドコーストに住んでいて、語学学校で出逢った友人の紹介でタイマッサージを始めた。
オーナーはワーカホリック気味のタイ人女性。お金持ちのオーストラリア人の旦那さんがいて、生活には全く困っていないのだが、タイで10歳くらいから自分でビジネスをやっていたらしく、お金を稼ぐというよりも仕事が大好きな人なのだ。
そんな彼女はゴールドコーストに当時3店舗のマッサージ屋さんを経営していた。
そして、そこで働くスタッフはワーキングホリデーに来ている韓国人と日本人の女性達。
タイ人のオーナーなのに何故かタイ人の従業員は雇わないのがポリシーらしかった。
ずっと疑問に思っていたので、ある日その理由を聞いてみた。
すると思ってもみなかった理由を教えてくれたのだ。
タイ人のオーナーがタイ人を雇わない理由
彼女はこう言ったのだ。
「タイ人の女の子を雇うとnaughtyなマッサージするからダメなのよー」
【naughty】《形》 1.いたずらな 2.わんぱくな 3.やんちゃな
つまり、いやらしいマッサージをしちゃうってことらしい。
なんと!まぁ!!なんて言っていいのやら……。
外国でこそ、同じ出身国の人に親近感を覚えるのが普通だと思っていたいこは、また別の視点を学んだのだった。
そんな中、お掃除スタッフとしてタイ人の女の子が雇われる
そんな理念がありながらも、ある日タイ人の女の子が雇われることになる。
当時彼女の経営していたマッサージ店は流行っていて、猫の手も借りたいくらいの忙しさだったのだ。
雇われたタイ人の女の子は、基本は掃除をしてくれるスタッフなのだが、どうしてもマッサージスタッフの人数が足りない時のみ、マッサージをさせてもらえるという条件で働く契約を交わしたようだ。
とても人当たりのいい女の子で、性格の良さが所作の随所から見受けられる子だった。
ある日、お店のお金がなくなる
ある日、マッサージ店のレジからお釣り用に入れてあったお金が紛失した。
誰一人、誰が怪しいとは言わなかったが、オーナーはじめみんながタイ人の女の子を疑っているのは明白だった。
その子は自分が疑われているのを雰囲気で感じ取り、身の潔白を証明するためにそこを去った。
手紙を置いて。
その手紙には「まだ支払われていない分の給料は、いこと○○(もう一人の日本人スタッフ)にあげてください。」と書かれていた。
いこはそれを聞いた時に、生まれて初めての感情で胸がつぶされそうだった。
いこは。彼女を疑った。
タイ人、というだけで。
彼女はとってもいい子だった。なんでタイ人というだけで判断してしまった?
そもそも私はタイ人の一般的な性格を知らない。
普通に考えればタイ人にだっていい人はたくさんいるだろうし、日本人にだって悪い人はたくさんいる。
国籍や肌の色なんて関係ない。その人間一人ひとりの個性と性格を見るべきだ。
なのに人から言われた事を鵜呑みにしてしまった。
自分の心で何が正しいのか、何を信じるのか判断しなかった。
なのに。なのに彼女はいこにお金を託した。疑われていると思わずに、いこは信じてくれているってあの子は信じてくれたんだ。
なのに。いこは。
この出来事は今思い返しても胸が苦しくなる。
それを機にいこは自分の目を信じることにした。
自分の目で耳で見て聴いて、感じた事を経験を踏まえて判断することにした。
今あの子はどこにいるんだろう。
きれいごとは言いたくないけど、心の中で言うよ。
本当にごめんなさい。そして、大切な事に気づかせてくれて本当にありがとう。