瀬戸内海で遭難した話。




ある夏の出来事。というか去年2015年の夏。

岡山に住んでいたいこはお隣の広島県、瀬戸内海に浮かぶ島に住む友人アクア氏を訪ねて行った。

小さな島で佐島という島。広島の尾道からバスで因島まで行き、そこからは船で向かう。

佐島は観光客が来るような島ではないが、町おこしの一環で友人が東京から移住してきたのだ。

アクア氏は島のおばちゃんと仲良くなって野菜をわけてもらったり、魚をもらったりといこの個人的黄金生活と大差ない生活をしていた。

そんな生活の中である日アクアは島に打ち捨てられていた黄色いボートを拾って来たという。

オールはついていなかったらしく、なんと、オールを手作りしたそうだ。たくましい。

快晴でボート日和のある日、そのボートで近くの無人島を目指してみよう!!という話になった。アクアの家に、自転車で日本一周の途中の間借り男子ゆってぃもいたので3人で出発。

行きは順調に漕ぎ進め、40分くらいで無人島に到着。

みんなでわいわいスイミングしたりと、楽しい時間を過ごし、そろそろ帰ろうかということに。

無人島からは目指す佐島はすぐそこに見える。さぁ、帰ってゆっくりしよう、と漕ぎ出す。

無人島から50メートル程離れ、しばらく漕ぎ続ける。

すると誰もが思っていても口にしてはいけない言葉をアクア氏がつぶやいた。

「……これ、進んで無くない?」

いこもゆってぃも「いや、進んでるって!大丈夫!!」とか言いながら、内心はこれ、やばい展開じゃないのー?と思っていた。

あまり役に立たないことを知りながらも手でオールのようにしてぱちゃぱちゃ手伝う。

そんな中、瀬戸内海なので大きな船が頻繁に行き交う。

その度に、大波が来て転覆の危機にさらされる。遠くに大きな船が見えたら、とにかくそこから生まれる大波に船先を垂直にポジションチェンジをする。ボートの横っ面に大波が当たり転覆しないようにするためだ。

3人に妙な連帯感が生まれてくるも往路40分のところ、かれこれ1時間半漕ぎ続けている。

…これ、本格的にやばくない?みんな顔を引きつらせるも、まだどこかで大丈夫と信じている。

360度見渡しても何も見えない大海原などではなく、ここは瀬戸内海。360度見渡す限りたくさんの島がある。船も嫌になるくらい行き交っている。本気でやばくなったらいくらでもSOS出来る。携帯だってあるし、つながる。

…でももし、瀬戸内海で遭難して救助されたりなんかしたら…相当笑われるし、馬鹿にされるだろうな…でも、もう2時間近くこのままだけど…なんかいい方法ないのか…。

いこ達は焦っていた。焦りすぎて妙なアイデアを思いつく。

「3人乗ってると3人分の重さで進みずらいけどさ、もし2人が海に入ってバタ足でボート押したらイケるんじゃね??」

いこ達は真剣だった。いことゆってぃは救命胴衣をつけたままドボンと海に飛び込み、一生懸命バタ足でボートを我らがホーム、佐島方向へ一生懸命バタバタした。

でも…全然効果はない。潮の流れがいこ達に試練を与えている。

実はいこ、この日に岡山へ帰る予定。もうそろそろ本気でやばいんじゃないか…と思い始めたその時。

若干19歳の自転車で日本一周中のゆってぃが提案する。

「むしろ佐島の向かいの島に潮の流れに乗って行けばなんとかなるんじゃない?」

佐島と向かいの島は大きな橋でつながれている。最悪ボートは持って帰れなくても橋を渡って帰ることができるのだ。

この冷静沈着な若者に賛同し、いこ達は方向転換し向かいの島を目指す。

すると…なんということでしょう!案外と簡単に島に着くことができたのです!!

いこ達は無事に家に帰りつく事ができたのだ。

岐路に着く途中、アクア氏の知り合いのおっちゃんに出くわし、一連の騒動について報告すると「バカじゃな、今日は大潮じゃあ」と半ば叱られ、半ば呆れられた。

調べてみると、なるほど次の日が新月の大潮(潮の満ち引きの差が一番大きい日)だったのだ。

無知って恐ろしい。けど、楽しい。

瀬戸内海で遭難したことある人間はそういないだろう。バカないこ達3人以外には。

夏のよい思い出になりました。

みなさん、暑い夏で川や海への旅行は楽しいですが、くれぐれも水難事故には気をつけて!!!