【変な人日記13】電車で自分と闘う意識高い系おじさん




みなさんの周りにも、よくよく観察してみると変な人はたくさんいる。

アンテナを少しばかり高くするだけで、同じ景色も今までとは違った風に見えてくる。

特に電車は変な人が出没する率のかなり高いホットスポットだ。

空いている電車では人目を気にせず自分の世界に入っている人、混んでいる電車では、そのストレスから理性を突き破って怪しい習性が出てしまっている人。

変な人観察は本当に楽しいので是非みなさんにもこの楽しさを知っていただきたい。

電車で目をこらせば必ず一人はいるから。

 

ステップおじさん現る

先日、夕方家に帰るため池袋で電車に乗り込み、5分後の発車を待っていた時のこと。

わさこは入口すぐ横の端の席に座っていたのだが、徐々に混み始める車内に一人の男が登場する。

そしてわさこの目の前のつり革をつかむ。50代半ばのぴったりちょうどいい正しいTHEおじさんだ。

 

そのおじさんの風貌は、ベージュオンベージュ。ベージュのシャツをベージュのチノパンにイン。腰にはおじさん特有の便利道具入れがベルトに通してある。

そしてベージュのシャツの胸ポケットにもいろいろな道具が入っている様子だ。

 

しばらく大勢の中の一人だったおじさん。突如輝きを放ち始める。

おじさんは、何かを胸ポケットから取り出す。

白くつるんとしたipodのような端末。それを見ながら、わさこの目の前でおもむろに足踏みをし始めた。

 

隣に立っていた男性はびっくりし、おじさんの真意をはかる為表情を伺うも、そこからは何も読み取れなかったようで、やがて興味を失い自分のスマホへと戻っていった。

わさこは久しぶりの観察対象が現れ、目の前にいることにイキイキとしてしまう。

しかし、変な人センサーの感知度としてはレベル1程度で、万歩計を見て「一日の目標の歩数に少し足りない、電車を待つ間に稼いでしまおう」と思っているのかな?意識高いおじさんだなくらい。

とにもかくにも観察を続けることとしよう。

 

 

やがて電車は動き出す。待っている間の時間つぶしかと思いきや、おじさんはステップをやめない。

つり革につかまりながら黙々とステップを続ける。

 

わさこの隣に座っていた10代後半から20歳前半と見られる女子。

彼女もおじさんを気に入った様子で、けっこうな至近距離の中、明らかにおじさんを盗撮する角度にスマホを傾けている。

おじさんは意識を集中している為、自分から半径20センチまでしか情報をキャッチできないモードになっている。だからそんな事は気付かない。いや、他人の目を気にして自分の夢や目標を叶えることが出来るか、そんな志だったのかもしれない。

充分におじさんの雄姿を撮影した後、彼女は若者特有のスマホ両手打ちで文字を打ち込んでいる様子。

お?twitterにでも上げるのか??と横目で見るも彼女のスマホにはのぞき見防止フィルムかなんかが貼ってあるようで画面が見えない。

他の変な人観察者の発信の仕方に興味があったので残念に思いながらも、おじさんの観察に戻ることにする。

 

 

するとおじさんは、新しい段階に突入していた。

 

額には汗がじんわりと滲んでいる。先ほど見ていた装置は持ったままだが、おじさんは自分との闘いの為に外界をシャットアウトすることにしたようだ。

目を閉じている。

「いち、に、いち、に、いち、に」のステップに意識を集中している様子。

そしてつり革に通した手を思いっきり開いている。全身にパワーがみなぎり始めたことがわかる。

 

継続は力なり。もうおじさんを変な目で見る人は誰一人としていない。

淡々と練習に打ち込むアスリートのごとく、敵は自分自身。

昨日の自分を越えるべく、おじさんは高みに向かっている。

 

 

 

やがて、わさこの降りる駅に着いた。おじさんがステップを踏み始めてから約10分。

わさこは迷った。降りずに最後まで見届けたい。着いていこうか。

ステップの目標回数を達成したおじさんの爽やかな顔が見たい。

 

しかし家ではおなかを空かせた旦那わさお君が待っている。わさこは断腸の思いで降りる事に。

ドアが閉まった後もおじさんは混雑した車内でステップを続ける。

ホームを去る電車。わさこはひとり、見えなくなるまでおじさんを見送った。

 

空港と電車のホームは出逢いと別れの行き交う、ドラマティックな場所なのである。