ある日のサウナの正味36分

ある日のサウナの正味36分




ある日の日曜。自転車で行ける距離にあるお風呂屋に行った。

優しい旦那わさお君がわさこの怒濤の二人育児を労い、午前中こども2人をみてるからお風呂でも行ってリラックスしてきなよ、と言ってくれたのだ。

そのお風呂屋のサウナでの何気ない風景。なんてことない日常の風景。

その日は冷えてはいたけれど、とても天気がよかった。風が強く、くるぶしの出るジーンズを履いてきたことを少し後悔しながら自転車でお風呂屋に向かう。

途中の信号待ちの間、横断歩道の目の前にあるスーパーの店先にならぶ特売品をなんとなく眺める。マイタケ一パック68円は安いな。店員さんが出来あがった焼き芋を包み紙に入れて販売の準備をしている。このスーパーは魚がいいって聞いた。

信号が変わる。高架下に新しくできた保育園を横目に見ながら、すごいとこに作ったなぁ、と独り言をつぶやきながら通り過ぎる。

朝一番、開店と同時にお風呂屋に着く。

本日は晴天。普段であれば、まずは内湯で温まってから露天風呂、といきたいところだが、何しろ天気がよく青空がきれいだったので露天風呂から始めることにした。

露天風呂にはこだわった庭木が配置されていて、癒しの空間が演出されている。

奥まってポケットのようになっているお気に入りの場所に落ち着き、空を見上げ、風を感じながら、湯にたゆたい感謝する。

育児の繁雑な日常から距離を置けるこの時間。なんて尊いのだ。

わさお君、ありがとう。最高だぜ。

十分に露天風呂を堪能した後は、サウナだ。今日は本気でやろう。

与えられた時間を満喫するべく、気合十分でサウナへと向かう。

本日のメニューは12分×3セット、水風呂を挟みながらこなすつもりだ。

入口の横にある水飲み器で水分補給。いざゆこう。

コの字型になっているサウナの一番奥に先客が。

壁に背をもたれかけ、足を段に伸ばして座っている。赤いタオルを頭に巻いている。手元には汗を拭く為のタオルが小さく折りたたんで置いてある。そしてお尻の下にも自前の赤いタオルが敷いてある。年の頃は70かそこら。

見覚えがある。

顔に見覚えがあったわけではない。

いつかの日曜もまた、同じ時間、同じ位置に同じ赤い色のタオルを頭に巻いて、おんなじ姿勢でいたからだ。

わさこはコの字のちょうど角のところに座ることにした。先客の人は壁にもたれてこちらを向いているので距離はあれど対面する格好になるが、サウナは自分との対話の場所。気にすることはない。

わさこのちょうど目線の先、そしてそのおばさんの持たれている壁のちょうど横辺りに短い針が一回りで12分を表す時計がかかっている。

おばさんはその定位置を人に譲るつもりはないらしく、サウナの外に出る時もお尻に敷いていた赤いタオルをそのままにして出ていく。よく見るとお尻の下の赤いタオルの柄はキティーちゃんだ。

その方は他の人がずらしたサウナマットを出て行きしなに左手でちゃっと極めてさりげないしぐさで毎回直す。前回見た時もやっていたのを思い出した。

わさこが12分×3セットのサウナメニューをこなす間、おばさんはずーっといた。

他の人たちも入れ替わり立ち替わりしていて、わさこはおばさんを見ている。

おばさんは自分の場所からみんなを見ている。

わさこの斜め前に座ったゴールドのバングルを2つ左手首にはめたご婦人はおそらく視線の先にいるわさこを見ているかもしれない。

と、考えているとなんだかぐるぐるまわるような不思議な感覚に襲われた。

ただののぼせかもしれない。

マナー違反ではあるが、誰も見ていない時に水風呂に頭まで浸かり、しゃっきりしてからお風呂屋を後にした。

頭の中はお昼ご飯何を食べようかということばかり。

そんなある日の出来事。