高校生の時に、仲のよい秀才女子M田と交換日記をしていた。
M田の成績はいつも学年でトップクラス。かと言って極度のガリ勉というのでもなく、ブラッドピットが好きなただただ育ちのよい女子だった。
書く字にその人の人格と知性が出ると言うが、彼女の字はまさに彼女そのものだった。
とってもキチンとしている、それでいてお硬くない。
優しく人を受け入れながら、しっかりと自分の秩序と意見を持ち生きている。そんな字を書くのだ。
昔懐かしい90年代のギャル文字
いこはというと、がさつな性格そのままに頭の悪そうな字を書いていた。
中学校から高校に差し掛かる頃、昔懐かしい90年代のギャル文字が流行っていた。
「な」とか「よ」とか「の」みたいなくるんと一回転するような文字は全てその部分がつぶれており、ただでさえブサイクないこが変顔をしているようなもんだなと今振り返ってみてため息が漏れる。
中学時代、女子同士の手紙のやりとりや交換日記もその悪しきブサ文字で氾濫しており、それが世のスタンダードなのだと思っていた。
身を置く世界が狭かったのだ。
高校でM田との出会い
いこは学生時代、勉強をしなくとも好成績を取れるイヤミなやつだったので、高校はその地域一番の進学校に受かり、その高校で育ちのよいM田に出会ったのだ。
周りには裕福で育ちのよい、中学にはあまりいなかったタイプの人種がたくさんいていこはどきどきしながらハイスクールライフのスタートを切る。
井の中の蛙とはよく言ったものだ。中学で半ば神童のようだったいこは高校で中の上くらいの平凡な存在に成り下がる。
高校では勉強したりしなかったり、サボったりサボらなかったりしながら普通の高校生としての青春を謳歌していた。
そんな中、クラスで仲良くなったM田と交換日記をすることになったのだ。
きっかけは定かではないけれど、きっとお互いの好きな人のこと語り合ったり学校ゴシップをする為のものだったと思う。
交換日記はいつまで続いたのかは覚えていないし、内容なんて無いようってなもんで本当に中身の無い、でもその時は本当に大事なトピックのやりとりをしていたのだろう。
M田から交換日記がまわってきてページを開くと、清く正しい文字がきれいに整列しており、内容よりもその美しさに毎回心を奪われてしまうのだ。
朱に交われば赤くなると言うが、いこもいつのまにか薄M田色に染まっていた。
交換日記を続けていくうちにブサイクなギャル文字は鳴りを潜め、いこの書く字からもじわじわと知性が滲み出してきたのである。
もちろんもともとの性格はM田とは正反対でがさつな為、きれいにまっすぐに文章を書くということには限界があったけど、一文字一文字は自分を見つめ直し更正の道をたどり始めたのだ。
驚く事に、M田との交換日記が日ペンの美子ちゃんがわりになっていた。
今も日ペンの美子ちゃん。よく月間マンガの後ろ側とかに広告載ってたやつ。
それはさて置き高校をはるか昔に卒業し、33歳になった今もそれなりの美文字を保っているように思う。
M田との交換日記をしていなければ、今も時代遅れの潰れたブサイクなギャル文字を書いているのかと思うと戦慄さえ走る。
やはり、字はその人を表すのだ。